『仕事ではじめる機械学習 第2版』を編集しました
編集を担当した書籍『 仕事ではじめる機械学習 第2版 』が絶賛発売中。電子書籍もあります。見どころについては 著者の有賀さんがまとめていらっしゃる記事 があるので、そちらをご一読いただくのがお勧め。
最初の版を制作したのが2017年から2018年にかけてのこと。そこから既に3年が経過して、いまだに機械学習への注目は高い状態が続いている。お陰さまで本書については刊行後も読者の支持を得続けることができ増刷を重ね、さらには改訂の運びとなった次第。
本書の制作
編集担当としては、内容に関してバリバリ議論&相互ツッコミをする著者陣を見守りつつ、周辺の環境を整備したり、印刷日程の調整をしたり、オビの惹句を考えたりしていた。
今回はトップスタジオさんご協力の下、制作の全行程をSphinxとTeXを組み合わせたツールセットで制作している。Sphinxが出力したTeXのソースから、印刷に適した形にしていただく所をトップスタジオさんにお願いし、僕はSphinx側の環境を整えて、TeXでの処理に必要なアノテーションを挿入したり、Sphinx標準の機能では出力できない文書構造を書き換えたり、TeX用の索引タグを挿入するSphinx拡張を書いていた。
単純な例ではSphinxのRoleを定義して、 texindex:`るいせきぶんぷかんすう@累積分布関数` のようなマークアップでTeX形式の索引を挿入したりした。この辺は『 Inside Sphinx 』を読むと書けるようになるはず。
これらの拡張の一部は、本書の前に編集した『 ウェブ最適化ではじめる機械学習 』の時に実装したものが元になっている。
「学び続ける」ための書籍
この2冊は他にも関連があって、両者の原稿のレビューを互いにお願いしてご覧いただいていたり、また書籍の方向性としてはずいぶん異なるのだけれど、担当編集の立場からすると同じ問題意識の下に企画/制作されている。
機械学習の技術解説書は、特定のツールやライブラリを利用して、既存のデータセットを用いて学習や予測を行うというような物が多い。『 仕事ではじめる機械学習 第2版 』にも書かれているように、こういった内容は機械学習を使ったシステム構築という全体像からすると基礎の部分ではあるものの、それだけでシステムを作るのは難しい。
本書は、この機械学習という技術を自らの物にするために、必要な知識の全体像を身につける基礎となる(つまり「仕事ではじめる」)知識を得るための書籍と考えている。機械学習という分野について「学び続けるための基礎」を得るための書籍とも言えるだろう。
一方で『 ウェブ最適化ではじめる機械学習 』の方も、ツールやライブラリがどのような動作原理の下に動いているのか、という背景を学ぶ上で役立つ知識を得られる書籍だと思っている。こちらもまた「今後も学び続けるための基礎」という意味では同じ性格を持った書籍だろう。
たとえるなら、前者は地図、後者はコンパスのような役割の書籍だと考えている。どちらも、いわゆる「機械学習」の技術のコアの部分を、なるべく手間をかけずに知るという機械学習を学ぶ定番のコースからはちょっと外れた部分のあるけれど、そこに両者の価値がある(と考えている)。
「マスターピース」を得るために
ここで話の流れが突然飛ぶのだけど『 古書修復の愉しみ 』という書籍がある。数年前に読んで僕にとってはとても得るところの大きかった1冊なのだけど、これはタイトルの通り古書修復士として訓練を積んだ筆者の回想録で、この中で著者は古書修復について学びながら、自分の仕事に必要な道具を自らの手でひとつひとつ制作する。
一通りの工程の理解と道具の制作方法を学び、職人としての技能を身につけた証として制作するのが本来の意味での「マスターピース」なのだそうだ。さらに職人としての精進はこれで終わりではなく、その後もさまざまな方法で技術を磨き続ける事になる。書籍の中では過去の職人(故人となった自分の師匠)の過去の仕事を観察して、そこから仕事の内容を類推するというエピソードが紹介されている。
僕は、ソフトウェアの分野(更には他の多くの分野における技能の習得)も、これと全く同じことではないかと思っている。基礎と原理、全体像を学び、更に自分で学び続ける方法を身に付ける。そのために資する本を作れたらいいなと思うし、今回の2冊の書籍(そしてそれ以外の書籍の多く)が、読者にとってそういうものであればいいなと考えている。