『ゴスペルの暗号』という書籍を読んだ。南北戦争前後、まだアメリカに奴隷制がひかれていた時代、逃亡奴隷を匿い、比較的自由であった北部自由州やカナダへの脱出を助けるための組織「地下鉄道」について書かれた書籍だ。
地下鉄道についてはWikipediaに簡単なまとめがある。英語版の方が記述は詳しいけれど以下のリンク先でもおおまかなアウトラインは分かると思う。
難しいのは存在そのものが秘匿された組織だったため、物的証拠がほとんど残ってないらしいことだ。とはいえ、関係者の証言は幾つも残っていて、特に有名なのが「地下鉄道」で逃亡奴隷の水先案内人を務める「車掌」のもっとも有名な一人、ハリエット・タブマンだ。
上記の書籍では、タブマンの非凡な能力についても紹介されていた。それは瀕死の重傷を負った事をきっかけに獲得されたという、近い将来に存在する危険を事前に察知できるとしか思えないような勘の良さだ。Wikipediaにある「この任務においても、タブマンは一度も捕えられることはなかった」というちょっと引っかかりのある文章は、おそらくこのことを指しているのだろうと思う。
この書籍はタブマンの話だけでなく、タイトルにもあるようにゴスペル(黒人霊歌)に隠された地下鉄道の暗号がテーマになっていて、かなり楽しめる内容だったので、ご興味のある方は手に取ってみて欲しい。
ザ・バンドの楽曲の中でも1、2を争って有名な曲に「ザ・ウェイト」がある。この曲の歌詞は「難解な歌詞」をいう形容がされることが多く、実際繰り返し聞いても意味がよく分からなかったのだけれど、なんとこの中にタブマンのニックネームと同じ「ミス・モーゼ」という名前が登場する。
Go down, Miss Moses, there's nothin' you can say一度、点が繋がりだすと、他のパートについても歌詞が暗示しているものがうっすらと見えてくる。宿を求めて彷徨う男、隠れ家を探すうちに悪魔と連れ立つカルメンとの出会い(有名なブルースマン、ロバート・ジョンソンが十字路で悪魔に魂を売って、ギターの才能を手に入れたという伝説はあまりにも有名だ)、犬を連れて霧の中を迫るチェスター...
It's just ol' Luke and Luke's waitin' on the Judgment Day
"Well, Luke, my friend, what about young Anna Lee?"
He said, "Do me a favor, son, won't you stay and keep Anna Lee company?"
この曲の特徴的なコーラスの「Fanny」も、歌詞の最後の節にある「 I do believe it's time to get back to Miss Fanny」と重ね合わせると、とても興味深い。
Take a load off, Fanny「Fanny」と呼びかけるコミカルな言葉も、見かけ以上に重い意味をはらんでいるように見えてくる。
Take a load for free
Take a load off, Fanny
And you put the load right on me
この「いわれなき抑圧から、水際を通って、犬を連れた追跡の目を盗んで逃げる」というイメージは、例えばコーエン兄弟の映画「オー!ブラザー」(犬を連れた保安官)や、古くは「逃亡者」(地下水道を逃げる主人公)に登場する。そういえばマーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』も、逃亡奴隷と川が登場する話だ。
映画、音楽、小説などに繰り返し登場するイメージは、いわば米国の記憶とでも言えるものなのかもしれない。
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